平成29年9月号
借地、貸地と相続税評価額3
◆定期借地権は3種類ある
現在、借地借家法で規定されている定期借地権は、下記3種類です。普通借地権とは異なり、いずれも契約更新を排除できることが大きな特徴です。
一般定期借地権 | 建物譲渡特約付 借地権 |
事業用定期借地権 | ||
存続期間 | 50年以上 | 30年以上 | 10年以上 30年未満 |
30年以上 50年未満 |
建物の用途 | 制限なし | 制限なし | 事業用 | |
法定更新 | なし | なし※ | なし | 更新排除の特約による |
建物買取請求権 | なし | あり | なし | 買取排除の特約による |
※建物の買取りにより借地権が消滅
◆借地権設定時の金銭の授受方法
定期借地権設定時には一時金の授受が行われるのが一般的です。その方式として下記の3つが存在します。
(1)保証金方式
将来の借地人の賃料滞納やその他の債務の不履行に対する担保として、地主が預かる金銭です。契約期間が満了し借地人に債務不履行がない場合には、通常その全額が借地人に返還されることになります。
なお、実際の定期借地権契約では、この保証金方式が最も採用されています。
(2)権利金方式
借地権設定の対価として借地人が地主に支払う一時金で、保証金とは異なり返還されません。
地主の一時的な税負担が大きくなること、借地人に対し旧借地権や普通借地権のような権利を与えるイメージがあることからか、権利金方式はあまり採用されていません。
(3)前払賃料方式
将来の地代の一部または全部を、借地権設定時にまとめて一時金として授受する方法で、平成17年1月より新たに認められたました。
なお、定期借地契約が中途で解約になった場合には、未経過分の前受地代は借地人に返還されます。
◆税務上の取扱い
定期借地権設定時に授受される一時金については、税務上以下のように取り扱われます。
(1)保証金方式
保証金は将来、借地人に返還しなければならないことから、貸主にとっては債務、借地人にとっては債権となります。貸主が個人の場合、その保証金の使途によっては所得税が課税される場合がありますので注意が必要です。
<地主>
〇 事業資金として運用・・・課税なし
〇 預貯金、公社債、指定金銭信託、貸付信託等の金融資産に運用・・・課税なし
〇 上記以外の場合(個人が家事用に消費した場合など)・・・「保証金×平均利率(平成28年は年0.05%)」を不動産所得の総収入金額に算入する(所得税課税)。
<借地人>
課税関係なし
(2)権利金方式
地主が受け取った権利金は、課税の対象になります。
<地主>
〇 権利金の額 > 土地の時価×1/2
・・・「権利金の額」を不動産所得に算入する。
〇 権利金の額 ≦ 土地の時価×1/2
・・・権利金の額-土地取得費× |
|
で計算した金額が譲渡所得となる。
<借地人>
無形固定資産として資産計上されます。土地と同様、減価償却をすることはできません。
(3)前払賃料方式
中途解約がない限り、権利金方式と同様地主に返還義務はありませんが、一時の課税を避けることができます。
一方、借地人は支払った一時金を期間に応じて費用化できるというメリットがあります。
<地主>
・受け取った一時金は前受賃料として負債計上。
・期間の経過に応じて、各年の収入金額に算入。
<借地人>
・支払った一時金は前払賃料として資産計上。
・期間の経過に応じて、各年の必要経費に算入。
※ なお、前払賃料方式を採用するためには、一定様式に準拠した契約書に基いて賃料の前払いとして一時金の授受を行い、その契約書を契約期間にわたって保管し、その取引の実態も当該契約に沿うものでなければなりません。
◆賃貸不動産の法人化にも活用
残債のある個人所有の賃貸不動産を、同族会社に移転するケースでも定期借地権は有効です。
通常は借入金を完済するために土地建物を会社に売却しなければなりません。その際には多額の譲渡税や流通税がかかってしまいます。
ここで、建物代金と定期借地契約の一時金を原資に残債を整理できれば、法人に建物のみを移転させられるため、個人の負担を抑えることが可能になるのです。