平成27年5月号
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税
また新たな贈与税の非課税制度がスタートしました。4月1日以降、結婚や子育てのための資金を親や祖父母から一括で贈与を受けた場合、子や孫1人につき1000万円まで非課税とされます。この制度の基本的な仕組みは、大ヒットしている「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」と同じです。政府は景気の好循環実現の一環として2匹目のドジョウを狙ったのでしょう。しかし、新たに創設されたこの「結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税制度」には、相続税対策という視点で考えた場合、大きな落とし穴がありますので注意しなければなりません。
◆贈与税の非課税制度の仕組み
「結婚・子育て資金」や「教育資金」の一括贈与が非課税になるのは、両親や祖父母が、信託銀行などで開設された子や孫の口座に、現金を一括して預入れた場合です。子や孫が直接手渡しでもらい自由に使えるわけではありません。そして「結婚・子育て費用」や「教育費用」の支払いに必要な都度、それを証明する領収書等を信託銀行等に提出することで、初めて預金を引き出すことができるのです。
◆両制度の比較
贈与者死亡時
の取扱い使い残しに対して相続税課税特になし
非課税制度 | 結婚・子育て資金 | 教育資金 |
資金使途 | ①結婚資金(挙式・披露宴用、新居の家賃、引越費用) ②出産資金(出産・産後ケア・不妊治療費用) ③育児資金(医療費、入園・保育料、施設費) |
①学校等(入学金、授業料、入園料、施設設備費、修学旅行・給食費) ②学校以外(塾、水泳教室、スポーツ・芸術に係る対価、通学定期代※、留学渡航費※) ※H27年4月~ |
贈 与 者 | 父母や祖父母(直系尊属) | |
受 贈 者 | 20歳以上50歳未満 | 30歳未満 |
非課税限度 | 1,000万円 (うち①結婚費用は300万円まで) |
1,500万円 (うち②学校以外は500万円まで) |
利用期限 | 受贈者が50歳になるまで | 受贈者が30歳になるまで |
期限時の取扱い | 使い残しに対して贈与税課税 |
両制度はそれぞれ独立した制度で、資金使途、制度を利用できる年齢、非課税とされる金額などが異なります。併用することもでき、両制度を合わせると2,500万円の贈与を受けることも可能です。一定年齢までに使い切らなかった場合に、その残額に対して贈与税が課される仕組みは同じです。決定的な違いは贈与をした親や祖父母が亡くなった際の取扱いです。「結婚・子育て資金贈与の非課税制度」は、使い残した残額がある場合、その残額は相続税の課税対象とされてしまうのです。。
◆結婚・子育て資金贈与は相続税対策にならない?
通常、贈与税の非課税制度は相続税対策に利用されます。贈与することで財産が減り、将来の相続税も減少するからです。そして教育資金なら、非課税制度を利用した1,500万円を子や孫が使い切る前に、贈与した親や祖父母が亡くなっても、その残額に相続税はかかりません。しかし、「結婚・子育て資金の非課税制度」の場合には、未利用の贈与資金(預金等の残高)が相続税の課税対象とされてしまうのです。もちろん、使った分は非課税なのでメリットがあるようにも見えますが、実はそうではありません。
◆そもそも生活費の贈与は非課税
今までも祖父母、親、子、孫、兄弟などの扶養義務者相互間の贈与は非課税とされています。つまり、教育資金であっても結婚・子育て資金であっても、必要の都度贈与していれば贈与税は掛からないのです。両制度の特徴は、将来の資金も含めて一括贈与をしても非課税となるところですが、「結婚・子育て資金贈与の非課税制度」の場合は、贈与資金を使い切らないと相続税がかかってしまうのです。それなら最初からまどろっこしい非課税制度など使わず、その都度贈与でいいわけです。これが「教育資金贈与の非課税制度」と異なり積極的に利用する価値が低い理由です。
◆メリットがないわけでもない
「結婚・子育て資金贈与の非課税制度」が、相続税対策として全く意味がないわけでもありません。通常、孫に課される相続税は、子などに課される相続税に比較して20%増しです。しかし、非課税制度の使い残しに対して課される相続税部分に関してはこの20%加算が免除されます。