平成29年3月号
退職金税制の有効活用
退職金は、税負担が少ない所得の一つです。長年の勤労の対価であること、老後の生活資金に利用されるのが一般的であることなどから、課税上一定の配慮がなされているのです。同族会社の経営者なら、計画的にこの退職金に対する税制のメリットをできる限り享受できるような方策を立てたいところです。
◆退職金は所得税負担が少ない
退職金を受け取ると「退職所得」として所得税や住民税の課税対象となります。しかし退職所得は、以下の3つの優遇を受けられることから、税負担は非常に低くなります。
(1)給与所得や事業所得、不動産所得などが総合課税となるのとは異なり、他の所得の影響を受けない分離課税とされる。通常所得税は高所得者ほど税率が高くなるが、退職所得は分離され、ゼロの状態から計算される。
(2)勤続年数に応じた退職所得控除額を控除できる。
勤続年数 | 1年~20年 | 21年~ |
退職所得控除額 | 40万円/年 | 70万円/年 |
(3)退職所得は「退職金の額-(2)退職所得控除額」の2分の1の金額となる。
(勤続年数5年以下の役員等は、2分の1計算をすることはできません。)
<具体例>
退職金:2,000万円 勤続年数30年 退職所得(2,000万円-1,500万円※)×1/2=250万円 |
このケースでは、2,000万円の退職金に対して約40万円の税負担で済みますので、実質的な税率は2%程度ということになります。仮に、退職金よりも退職所得控除額の方が大きければ、税負担はゼロです。
現役時代、高額な給与に40%、50%の所得税等を課税され、その中から老後に備えて貯蓄をするくらいなら、給与の額を抑えて会社に現金をため込み、退職時に一括して退職金としてもらった方が良いということです。
しかも、退職金なら社会保険料もかかりません。
◆退職金で会社の税金も減らせる
会社にとって退職金を支給するということは、経費が増えることなので、法人税等が減少する結果となります。
しかし、キャッシュアウトも一気にされます。このインパクトを和らげるには、生命保険が効果的です。
あらかじめ役員などを被保険者とした生命保険に加入して、役員などの退職時期に保険金や解約返戻金を会社が受け取れば、それを退職金の原資とすることでき、退職時の一気のキャッシュアウトを避けることができます。
また、支払う保険料の全部または一部は経費として毎期損金計上されるため、経費の平均化、前倒し計上も可能となります。
◆過大な役員退職金は否認される!
同族会社のオーナーは、ある程度自分の裁量で退職金の額を決めることができますが、法人税法上は不相当に高額な部分の金額は損金不算入とされます。
税務上認められる役員退職金は一般的に功績倍率法に基づき計算されます。
<役員対象金の計算式>
最終役員報酬月額×役員在任期間×功績倍率 |
功績倍率は、その役員の職務の内容、経営や成長等に対する貢献度などから決めるべきものですが、類似法人の数値とかけ離れたものであってはなりません。
一つの基準とされている昭和56年11月18日の東京高裁判決では以下のように示しています。
社長3.0、 専務2.4、 常務2.2、 平取締役1.8、 監査役1.6 |
あらかじめ役員退職慰労金規定を設けたり、支給時は株主総会で計算根拠を含めて決議しておくことも重要です。
◆死亡退職金なら相続税も減らせる
場合によっては、死亡時に遺族が退職金を受け取ることもあるでしょう。この死亡退職金は通常相続税の課税対象となります。
しかし、相続人が死亡退職金を取得した場合には、「500万円×法定相続人の数」までの金額が非課税とされます。法定相続人が3人なら1,500万円までの退職金なら相続税が掛りません。支給した会社は前述のとおり法人税が減少します。
さらに、支給する退職金はその会社の株価計算上、未払金(債務)として取り扱われることから、通常は株価が低くなり、被相続人が所有するその会社の株に対する相続税負担が減少する結果となります。
◆弔慰金なら税金もかからない
死亡退職の場合、退職金とは別に会社が遺族へ弔慰金を支払うことがあります。
税務上、死亡が業務上の理由であれば給与の3年分、業務上以外の理由で有れば給与の半年分までの弔慰金は相続税の対象になりません。
一方、会社は弔慰金を経費として損金に算入することができます。
◆生前の事業承継にも効果的
生前に事業承継するなら、前期に退職して退職金を確定させ会社利益を減らしておくと、株式の評価額が低くなり、より多くの株式を子などに贈与することができます。
税務上様々な場面で退職金は優遇されていますが、個人事業ではこのメリットを享受することはできません。
物販や飲食業、不動産賃貸業など個人事業を法人化することは、退職金税制からみても有効であるといえるのです。