平成28年10月号
居住用の家屋の判断
自己居住用の不動産はその性質上、様々な優遇税制が設けられています。居住用であるか否かにより税負担に大きな差が生じるため、その判断について課税当局と争いになることがよくあります。
最近公開された国税不服審判所の裁決(平成28年3月16日)事例でも、電気、ガス、水道の使用実績がほとんどなく窓ガラスも割れたままであった家屋は居住の用ではないとして、特例適用が認められませんでした。
「居住の用」の定義についての基本的なスタンスはどの税金でも同じですが、今回は特に「居住用財産の譲渡」に関連した所得税法上の取扱いを確認します。
◆税法ではどのように定められているか
居住用財産に関する譲渡所得の特例でよく利用されるのは次の3つです。
(1) 居住用財産の3,000万円特別控除(措法35条)
(2) 居住用財産を譲渡した場合の軽減税率(措法31条の3)
(3) 特定の居住用財産の買換え特例(措法36条の2)
「その者の居住の用に供している家屋」について措置法通達31の3-2では次のように定義しています。
その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。 |
また留意点として次のような家屋は居住用家屋に該当しないこととされています。
1)特例の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋
2)新築期間中だけの仮住まいである家屋
3)その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
4)主として趣味、娯楽又は保養の目的で所有する家屋。
◆住民登録の有無は最終的な判断材料にはならない
「居住の用」の税務上の判断基準を一言で言うと「生活の本拠」であるかどうかです。住所の証明のために、確定申告には住民票やその除票を添付することになっています。しかし、住民登録地=生活の本拠、ではありません。
売却意思がありながらその物件所在地で住民登録を行い、実際にはほとんど居住せず売却し、確定申告で特例を適用したケースでは、重加算税が賦課され否認されています。
それとは逆に、何らかの理由で住民登録されていなくても、家屋を生活の本拠として利用していたことが証明できるのであれば、特例を適用することは可能です。その場合には、住民票を添付できないことの事情説明書と生活の本拠であったことを証する書類を確定申告書に添付します。
◆居住用の家屋は一つ
居住用の家屋が複数ある場合には、主として居住している家屋を譲渡した場合のみ特例の適用があります。それ以外の家屋は別荘やセカンドハウスとしての位置づけです。
やはり、生活の本拠がどこなのかが問題となります。
◆具体的な判断基準は?
特例適用の対象となった家屋が生活の本拠として利用されていたかどうかについて、税務署は次のような点を総合的に勘案して判断しています。
(1) キッチン、浴室、洗面など住宅としての設備の状況
(2) 電気・ガス・水道などの使用量
(3) 電話の移設の状況、使用状況
(4) 勤務先への住所の届出、通勤定期の内容
(5) 引越しの有無、引越し時期
(6) 郵便物の到着場所
(7) 不動産の売却活動の開始時期、売買契約時期
(8) 近隣住民の証言
◆一時的な居住の場合、認められないことも
「居住の用」のもう一つの判断基準は「居住期間」です。規定上は明確な基準がなく、一時的な利用目的での入居を特例適用不可としているのみです。
なお税務署は、居住後1年以内に売却された不動産について特例を適用した確定申告書が提出された場合には、納税者にその経緯を確認することになっているという話しを聞いたことがあります。かといって1年以内ならダメ、1年超ならOKという訳でもありません。
居住後短期間で売却した場合には、「会社より遠方への赴任を命じられた」など、売却に至った理由を明確に説明できるようにしておく必要があります。
◆贈与直後の売却は特例の適用が認められるか?
3,000万円特別控除の適用を目的に居住者が所有者から贈与を受けたり、3,000万円特別控除を2人分適用することを目的に同居する家族に持分贈与を行ったりすると、譲渡税を軽減できる場合があります。
相続時精算課税などの特例と併用すれば贈与税も回避できます。
しかし、合法的とみられるこの方法も、必ず認められるとは限りません。裁判例では、たとえ長期間居住していた家屋であっても、贈与により所有者となった時点で「所有者として居住する意思を持って居住の用に供したもの」と認められなければ、居住の用に供している家屋に該当しないとさています。
安易な特例適用には、大きなリスクが潜んでいます。複数の家屋を所有している、居住期間や所有期間が短いといった場合には、その家屋が生活の本拠であることを客観的に証明できるようにしておかなければなりません。