平成28年9月号
上場株式の相続税評価が変わる?
金融庁は、平成29年度税制改正で上場株式の相続税評価額の見直しを要望しています。その内容は、①上場株式の評価額を時価から10%減額した金額とすること。②相続から5か月間以上株価が50%以上下落した場合には、その下落した金額を評価額とすることです。
昨年度のも同様の要望を出していましたが、引き下げ割合が30%と大き過ぎためか見送られた経緯があり、今回は引き下げ割合を10%に抑えての再要望となりました。
現在の上場株式の評価は、原則として相続や贈与時点の証券取引所の終値とされています。しかし現預金とは違い、上場株式は価格変動リスクが高く、納税時には紙くず同然になっている可能性さえあります。不動産なら地価公示価格の約8割といわれる路線価や、建築価額の5割~7割程度といわれる固定資産税評価額が相続税評価額の基礎とされるだけでなく、様々な評価減の規定も存在します。その不動産より価格変動リスクが高いであろう上場株式に割高感があることは否めません。また、上場株式の相続税評価額を軽減することで、投資資金を株式市場に向かわせようという狙いも垣間見えます。
◆上場株式はどのように評価されるか
実は上場株式の相続税評価額は、相続時点や贈与時点の価格のみを基礎に計算されるわけではありません。やはり価格変動があることを考慮して、課税時期以前3か月の各月の月平均額のうち最も低い金額を1株当たりの評価額とすることができます。
<上場株式の相続税評価額>
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課税時期とは、相続なら被相続人の死亡の日、贈与なら贈与により財産を取得した日です。
最終価格とは、各取引所の終値のことで、例えば東京証券取引所なら午後3時の取引終了時の取引価格です。
課税時期が土日祝日であったり、その日に取引が成立しなかったりした場合には、その前後で最も近い日の最終価格が適用されます。銘柄によっては、複数の取引所に上場されている場合もあるでしょう。例えばトヨタ自動車は東京、名古屋、札幌、福岡の各証券取引所に上場されています。このような場合は、その取引所の中で最も低い最終価格を選択することができます。
月平均額は、各月の毎日の最終価格を合計し取引日数で除して計算します。日本取引所グループでは銘柄ごとの月間相場表をホームページで公表しておりとても便利です。
このように細かく調べることで、複数の価格の中で最も低い金額を評価額とすることができるのです。しかし、株価が下落傾向にある株式の場合は、結局、課税時期の最終価格が最も低い金額になるでしょうし、その後も下落が続けば相続税や贈与税の納税時には換金しても納税資金を確保できないような事態になることも考えられるのです。
◆急騰株式を利用した節税は可能か?
それとは逆に株価が上昇している株式は税負担が軽くなります。株価が上昇する前、例えば前々月の月平均額を評価額とすることができるためです。実はこの性質を利用すると大幅な租税回避が可能となってしまうのです。まずはここ1~2か月間に急騰した株式を購入し、この株式を贈与します。実際には証券会社の口座間で贈与のための移管手続きを行います。贈与を受けた者が、その株式を急騰後の株価で売却すれば、現金を贈与したのと同じことになりますが、贈与税は極端に少なくなるのです。贈与税は急騰前の株価に基づき計算することができるためです。
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このケースでは、現金500万円を直接贈与するのではなく、いったん上場株式に換えてから贈与することで無税での贈与が可能となってしまいました。
ただし、贈与手続き中の株価の下落リスクはあります。贈与の直前購入、直後売却などあからさまな租税回避の場合には否認を受けるリスクもあります。また、相続税でも同様に計算されますが、死亡日の予測は難しいですし、被相続人の意思決定能力で問題になることもあります。実際には、これらの点を踏まえて実行しなければなりません。
なお、仮に冒頭の金融庁の改正要望が通った場合には、過去の月平均額(上記(2)~(4))を選択できなくなることも予想されます。改正の内容については今後、改めて取り上げたいと思います。