平成28年8月号
不動産投資で所得税還付?
アパートや一棟マンション、分譲マンション投資が節税になる、という話を耳にすることがあります。不動産業者のセールストークになっていたりもします。相続税対策ということであれば、一般的に購入価額と相続税評価額に乖離が生じることから効果があると言えるでしょう。では、サラリーマンが所得税の軽減を目的に不動産投資を行うことは本当に有効なのでしょうか?失敗しないよう正しい知識を身に着けて慎重に行う必要がありそうです。
◆なぜ還付になるのか?
サラリーマンの所得である給与所得はガラス張りと言われ、それだけでは節税がほとんどできません。そこで不動産投資を行い、不動産所得を赤字にして確定申告で給与所得と相殺してしまえ、という訳です。全体の所得が減少するので、毎月の給与から源泉されていた所得税が戻ってきます。したがって、給与の税金の還付を受けるためには不動産所得を赤字にする必要があります。では、どのように赤字にするというのでしょうか。
家賃収入よりも経費の方が多ければ赤字になります。レシートをなんでもかんでも経費計上してしまう方もいますがこれは論外として、一般的に経費が多額に計上される理由は「減価償却費」の存在です。建物の購入代金はその耐用年数に応じて毎年均等に経費化されていきます。この減価償却費と固定資産税や管理費などの経費が、家賃収入を上回れば赤字となり、晴れて所得税の還付となるのです。
◆購入初年度は還付になる可能性大
特に投資用不動産を購入した年は赤字になる可能性が高くなります。不動産購入時の様々な諸費用の中には、全額その年の経費として計上して良いものがあるためです。
不動産取得時に経費として計上して良いもの |
・登記費用(登録免許税+司法書士報酬) ・不動産取得税 ・収入印紙代 ・1個30万円未満の設備・備品等(総額300万円まで)※ ※青色申告者で平成30年3月31日までの取得に限られます。 |
所得税は1月1日から12月31日までの所得を基に計算するため、不動産賃貸開始が年末に近いほど年間の家賃収入は少なくなり、赤字になる可能性は更に高くなります。
とりあえず、初年度は所得税の還付が見込めそうです。
◆2年目以降も還付なるような物件はダメ
2年目以降はどうでしょうか。新築や築浅物件などでは大きな修繕費などが発生しない限り通常は赤字にはなりません。慢性的に赤字になるようであればそもそも投資としては失敗です。普通に考えれば、税金を少なくするために赤字にするなど本末転倒な話しなのです。
・購入金額:8,000万円 (土地3,000万円、建物5,000万円) ・借 入 金:5,000万円 (利率1%、30年) ・諸 経 費: 固定資産税 ▲40万円 管 理 費 ▲36万円 雑 費 ▲24万円 借入金利息 ▲50万円 |
○不動産所得
家賃収入 | 600万円 | 200万円 |
諸 経 費 | ▲150万円 | |
減価償却費 | ▲106万円 | |
利 益 | 344万円 | ▲56万円 |
○キャッシュフロー
家賃収入 | 600万円 | 200万円 |
諸 経 費 | ▲150万円 | |
借入金返済 | ▲120万円 | |
所得税等※ | ▲103万円 | 17万円 |
キャッシュ | 227万円 | ▲53万円 |
※所得税・住民税率30%と仮定
家賃600万円の物件は税金が掛りますがキャッシュは227万円のプラス、家賃200万円の物件は17万円の税金還付を受けてもキャッシュは53万円のマイナスです。
◆年収700万円以上の場合は築古物件で節税可!
しかし、築年数の古い物件を利用すれば、節税になる方法があります。例えば法定耐用年数22年を経過した木造アパートは4年間で減価償却できるため、多額の減価償却費計上による所得税還付を期待できます。ただし、5年目以降は減価償却費が計上できなくなります。そこで6年目の年にこのアパートを売却します。5年超所有した不動産の譲渡所得は税率が20%となるためです。給与年収約700万円(課税所得330万円)を超える人は所得税住民税率が30%以上ですから、その差分の節税が図れるのです。
例えば、給与年収が1,000万円(所得税住民税合計は約131万円)の人が次の投資用不動産を購入したとします。
・購入金額:建物2,000万円(築22年・木造)、土地3,000万円 ・家賃収入:200万円 ・諸経費:200万円 |
減価償却費は2,000万円÷4年=500万円です。4年間は500万円の赤字が発生し、所得税等は12万円になります。この不動産を6年目に購入金額と同じ5,000万円で売却すると、建物の帳簿価額は減価償却の結果ゼロとなっていますので2,000万円の譲渡所得が発生します。
項 目 | 1~4年目 | 5年目 | 6年目 | 合 計 |
給与収入 | 1,000万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 6,000万円 |
不動産所得 | ▲500万円 | 0 | 0 | ▲2,000万円 |
譲渡所得 | - | - | 2,000万円 | 2,000万円 |
所得・住民税 | 12万円 | 131万円 | 331万円 | 510万円 |
6年間の所得税等の総額は510万円となります。6年間給与のみの場合の所得税等の総額は786万円ですので、総額276万円、税負担が減少しました。給与所得は累進課税のため所得の大きい人ほどその効果は顕著です。