平成28年6月号
遺留分にどう対応するか?
近年、相続に対する関心の高まりから、来るべき日へ向けた準備をされる方が増えてきました。遺言書の作成もその一つです。しかし、せっかくの遺言も、遺留分により一部否定されてしまうことがあるのです。
◆遺産は誰のもの?
(1) 遺言書がある場合
亡くなった方が生前に遺言書を作成していた場合、遺産はその遺言書に従って分配されます。遺言書に指定されていれば、家族だけでなく、血の繋がっていない人や法人、特定の団体など、誰でも遺産を引き継ぐことができます。
(2) 遺言書がない場合
遺産は、本来亡くなった方の意思に基づいて引き継がれるべきです。しかし大多数の方はその意思、つまり遺言を残さずに亡くなっています。そのような場合に備え、民法では遺産を取得できる人「相続人」と、その相続人の遺産に対する権利義務の割合「相続分」を定めています。
順位 | 法定相続人 | 法定相続分 | |
1 | 配偶者+子(又は孫) | 配偶者 1/2 |
子(又は孫) 1/2 |
2 | 配偶者+父母(又は祖父母) | 配偶者 2/3 |
父母(又は祖父母) 1/3 |
3 | 配偶者+兄弟姉妹(又は甥・姪) | 配偶者 3/4 |
兄弟姉妹(又は甥・姪) 1/4 |
◆遺言によって全財産を遺贈。遺留分は
遺言書さえ作成すれば、死後自分の財産を好きなように処分することができます。しかしこれでは遺産を取得できなかった相続人はたまったものではありません。遺言書がなければ取得できたはずの遺産を取得できなくなったわけですから。赤の他人に遺贈されるのであれば尚更です。そこで民法は、一定の相続人に対し、一定割合の遺産を取り戻すことができる権利である「遺留分」を定めています。遺留分は、被相続人が生前に特定の者に贈与をしているようなケースも対象とされます。
なお、遺留分権利者は、相続開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に「遺留分の減殺請求」をしなければ、その権利を失うことになります。
相続人 | 遺留分 | 各人の遺留分 |
配偶者と子 | 1/2 | 配偶者1/4、 子 1/4※ |
配偶者と直系尊属 | 配偶者2/6、直系尊属1/6※ | |
配偶者のみ | 配偶者1/2 | |
子のみ | 子1/2※ | |
直系尊属のみ | 1/3 | 直系尊属1/3※ |
※複数いる場合には均等に分けます。
このように遺留分は配偶者、子(子が先に亡くなっている場合には孫)、直系尊属(父母など)にしか認められておらず、兄弟姉妹には認められていません。したがって、子(孫)や親がおらず、配偶者と兄弟姉妹が相続人になるケースでは、生前に「全財産を配偶者に相続させる」旨の遺言を作成しておくことで遺産相続が確定し、争いになる心配はなくなります。
(具体例)
被相続人甲の遺産・・・1億円 相続人・・・配偶者乙、子A、子B 遺言・・・「全財産を子Aに遺贈する。」 <遺留分> 配偶者乙:1億円×遺留分1/4=2,500万円 子 B:1億円×遺留分1/4×1/2(2等分)=1,250万円 |
◆遺留分の対策
○養子縁組
各相続人の遺留分は、その遺留分に相続分を乗じた割合です。したがって相続人が多いほど各相続人の遺留分は少なります。例えば、(具体例)のケースで、子Aの子(甲の孫)である孫C、孫Dが甲の養子となっていれば、子Bの遺留分は「1億円×遺留分1/4×1/4(4等分)=625万円」となります。ただし、養親、養子の意思に基づいた縁組でないと無効になる恐れがありますので注意が必要です。
○生命保険への加入
生命保険金は相続財産ではありません。財産を与えたい者を受取人とした生命保険に加入しておけばその保険金は遺留分の対象から外すことができます。
○遺留分を放棄してもらう
遺留分権利者が家庭裁判所に申立て、許可を受けることで、生前に遺留分の放棄をしてもらうことができます。もちろん事前に話し合い、納得してもらう必要があります。
○争いにならない遺言書を作成する
まずは各遺留分を侵害しない遺言書の作成を心掛けることが一番です。それでも、遺留分を侵害する遺言書を作らなければならない場合には、遺言書にしっかりとした付言事項を記載します。付言事項には法的な拘束力はありませんが、残された家族に対する想いや感謝の言葉などのメッセージを伝えることができます。普段から自分の意思を言葉で家族に伝えておくのも良いでしょう。要は遺留分権利者の感情に訴える方法ですが、これが一番の対策なのかもしれません。