平成28年5月号
減価償却を上手に利用しよう!
個人であっても会社であっても、設備投資を行う際、事業計画の重要な要素の一つとなるのが減価償却です。これを正しく理解して事業を進めていかないと、思わぬ資金難に陥ることがあります。減価償却を上手く使って、税金対策や資金繰りの改善につなげていきましょう。
◆減価償却のしくみ
資産を取得した場合、その支払金額を取得した年の経費として処理するのではなく、使用する期間に振り分けて経費化していこうというものが減価償却です。例えば3,000万円の賃貸アパートを購入し、その建物を30年間使用するなら、3,000万円を取得年の経費にするのではなく、毎年100万円ずつ30年間経費として計上します。購入時には実際に何年間使用するか分からないため、税務上の定められた法定耐用年数に応じて償却することになります。
◆前倒しで経費化できる定率法
耐用年数期間中、毎年同額の減価償却費を計上する方法を「定額法」といいます。これに対し、当初に多額の減価償却費を計上し、その後徐々に逓減させていく償却方法が「定率法」です。したがって定率法は資産を取得した当初、定額法に比較して多額の経費計上を行えるため、税金の負担が少なくなるというメリットがあります。
なお、個人の場合、定率法を選択するためにはあらかじめ税務署に届け出なければなりません。
◆附属設備、構築物も定率法が使えなくなった!
投下資本の早期回収という点では、定額法よりも定率法の方が勝っています。しかし、「建物」については平成10年4月1日以後の取得から、定額法しか選択できなくなりました。更に、「建物附属設備」「構築物」についても平成28年4月1日以後の取得から、定額法しか選択できないことになってしまいました。
◆資産の区分に応じた償却を!
法定耐用年数は資産の種類や用途に応じて定められていますが、耐用年数の短い資産の方が年間の減価償却費は多くなり、税負担が少なくなります。例えば、建物を取得すると、通常、附属設備や構築物も取得しますが、鉄筋コンクリート造の賃貸マンションの場合の法定耐用年数は、建物本体の47年に対し、電気・ガス・給排水設備が15年、昇降設備が17年、アスファルト舗装が10年、コンクリート舗装が15年です。建物を建築したのであれば工事明細、建物を取得したのであれば売主との間で、設備の種類とその金額についての確認を取っておきましょう。建築金額や購入金額のすべてを建物として減価償却することは、結果的に税金を前払いすることになってしまうのです。
◆借入金返済額より減価償却費の方が大きいものを!
不動産投資を行う際よく陥るのは、利益が出ているのにお金が増えないという状態です。例えば、土地5,000万円、建物5,000万円の賃貸マンションを全額借入金(20年返済)で購入したとします。 実質利回りは5%としましょう。つまり年間500万円の利益です。しかし、お金が500万円増えるということではないのです。ポイントは「減価償却費」と「借入金元本返済額」です。建物の減価償却費は、耐用年数が47年の場合、年間約106万円となります。これは取得金額が47年間に振り分けられただけですから、毎年の現金の流出がない経費です。したがって毎年、利益500万円+減価償却費106万円=606万円の現金が増えることになります。借入金を元本均等返済すると、元本返済額は1億円÷20年で年500万円です。増えた現金606万円から500万円を返済するので、現金は106万円しか残りません。さらに、利益に対して仮に30%の税金が課せられたら106万円-税150万円=▲44万円となります。これが長く続けばいわゆる黒字倒産になります。「利益+減価償却費」をプラス、「元本返済額+所得(法人)税」をマイナスとして、マイナスの方が大きいような投資は危険です。
◆中古資産は資金繰りに有利?
中古資産の耐用年数は、通常「法定耐用年数-経過年数×80%」で計算されます。既に耐用年数を経過した資産は「法定耐用年数×20%」で計算します。新築なら47年の建物は、中古なら最低で9年となります。5倍以上の減価償却費を計上できるため、税負担は減少、資金繰りも楽になります。ただし通常、中古の不動産は返済期間も短くなるので、やはり借入金の返済額との比較は必要となります。
◆リリースのタイミングは?
減価償却すれば資産の帳簿価額は減っていきます。したがって、将来その資産を売却すると、今までの減価償却費が売却益に変わり譲渡税が課されます。それならトータルの税負担は同じかというとそうとも言い切れません。個人の場合、不動産保有時の利益は不動産所得(総合課税)として15%~55%の所得税等が課税されます。これに対し、不動産売却時の利益は譲渡所得(分離課税)となり、所有期間5年超の場合の税率は20%です。総合課税所得が330万円を超えると税率が30%以上になり、譲渡所得の方が有利になります。減価償却は不動産所得を減らし、譲渡所得を増やすので、その意味でも節税になります。不動産取得後になるべく多額の減価償却を行い、所有期間が5年を超えて、減価償却費が少なくなった段階で売却し、次の不動産に組み替えるのも一つの投資法ではないでしょうか。