平成28年3月号
養子縁組は相続対策に有効か?
相続増税が決まってからというもの、相続税対策への関心も高まってきました。養子縁組の利用もその一つです。相続税の負担軽減や、遺留分対策を目的として行われるわけですが、その仕組みや注意点を確認してみましょう。
◆普通養子と特別養子?
日本の養子縁組制度には普通養子と特別養子があります。普通養子縁組は、当事者双方(15歳未満の場合は法定代理人)の署名押印と、証人2名の署名がなされた養子縁組届を役所へ提出することで成立します。本籍地に届け出れば届出人の本人確認だけ、しかも無料でできてしまいます。
一方、特別養子縁組は、夫婦共同で原則6歳未満の子供を正に我が子として迎え入れる制度です。家庭裁判所に申立て、審判を受けなければなりません。実親との関係も消滅するなど、子供の福祉を目的とした制度といえます。
◆なぜ相続税対策になるのか
養子は実子と同様に相続人になります。相続税法には、法定相続人の数に応じて計算をする次のような規定があり、数が多いほど相続税が少なくなる仕組みになっています。
1)遺産に係る基礎控除額
被相続人の遺産総額が基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下であれば、相続税はかかりません。養子縁組により法定相続人が1人増えれば、その基礎控除額が600万円増えることになります。
2)相続税の総額の計算
相続税の税率は、遺産額に応じた「超過累進税率」を採用していますが、課税遺産総額に各法定相続人の法定相続分を乗じた金額に税率を乗じるため、法定相続人が多いほど細分化され、低税率になります。
(例)課税遺産総額:1億円、法定相続人:子1人
→1億円×30%-700万円=(相続税)2,300万円
課税遺産総額:1億円、法定相続人:子2人
→5,000万円×20%-200万円=800万円
5,000万円×20%-200万円=800万円 (相続税)1,600万円
3)生命保険金等・退職手当金等の非課税金額
相続人が保険会社から受ける生命保険金、勤務先から受ける退職手当金については、それぞれその合計額のうち「500万円×法定相続人の数」までが非課税とされます。
◆相続税には養子の数の制限がある
しかし、養子縁組を繰り返して法定相続人の人数を増やしていけば、相続税を限りなく減らすことができるのかというと、そういう訳ではありません。課税回避を防止するため、相続税法上は養子が何人いようと、法定相続人としてカウントできる人数が次のように定められているのです。
・被相続人に実子がいる場合・・・・1人
・被相続人に実子がいない場合・・・2人まで
ただし、前述の「特別養子縁組による養子」や「配偶者の連れ子である養子」などは、その性質上から養子の制限の対象にはされていません。
◆孫養子は損か得か?
養子といっても赤の他人との縁組は、色々な意味で難しいものです。一般的に「子供の配偶者」や「孫」を養子とするケースが多く見受けられます。家族内での養子縁組であれば戸籍に変動はあるものの、外見的には何も変わらないためです。このうち孫を養子とした場合には、相続税上のメリットとデメリットが発生します。メリットは相続税を1回パスできることです。通常は2回の相続を経て孫は財産を取得しますので、相続税も2回課税されることになります。一方、孫が養子になれば相続人として直接財産を取得できるため1回の相続税課税で済むことになるのです。
デメリットは孫養子の相続税は2割増しになることです。もっともこれは相続税を1回パスできることに対する重課なのですが、それでも相続税の課税を1回で済ませた方が通常であればトータルの税負担を少なくできます。
◆遺留分を減らす効果もある
親が長男家族に財産を遺し、次男家族には財産を遺したくないと考え、長男に100%遺産を相続させる遺言を作成したとします。このような場合でも次男は遺産全体の4分の1を取り戻すことができます。これが遺留分です。そこで、親が生前に長男の配偶者と子供の2人を養子にします。すると次男の遺留分を8分の1に減らすことができるのです。
◆養子縁組の問題点は?
しかし過去の判例では、養子縁組が、財産を養子に相続させることのみを目的になされているケースや、遺留分の減少を目的になされているケースが無効とされています。親の判断能力の有無も重要なポイントです。
相続税法上も、養子縁組が相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合は、その養子は前述の「法定相続人の数」から除かれてしまいます。
本来、養子縁組は親子という身分関係を築くことを目的に行われるものです。それは当事者の意思の問題であって客観的に測れるものではありませんが、少なくとも養子縁組届にそれぞれの自署がいる、認知症など判断能力を欠く状態でない、といった条件は満たしておくべきです。
また、養子縁組は、ただでさえの争いの種となる相続人を増やす行為です。安易に行うことなく、十分な計画、根回しをした上で実行されることをお勧めします。。