平成27年3月号
迫り来る富裕層包囲網(2)
海外脱出。欧州などと違い、島国日本では少しハードルが高いですが、海外に移り住む日本人居住者は確実に増えているようです。財務省のまとめによると2013年現在、キャピタルゲイン非課税のニュージーランド、シンガポール、香港、スイスの4か国に住む日本人永住者が1996年と比較して2.6倍に増えました。もちろん様々な要因があるのでしょうが、富裕層による税金対策もその一因でしょう。
海外には中国、香港、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ロシアなど相続税や贈与税のない国が多くあります。むしろ国際的には廃止の傾向にあります。しかし我が国日本は課税強化ですから、逃げたくなるのももっともかもしれません。では、果たしてうまく逃げられるでしょうか。前回に続き、資産家に対する課税当局の対応を海外との関係を中心に確認したいと思います。
◆国外に居住していても相続税・贈与税
日本の居住者が相続や贈与で国外の財産を取得しても、日本で相続税や贈与税が課されます。実は国外の居住者が、国外の財産を相続や贈与しても、日本の相続税や贈与税が課されることがあります。かつては後者のケースで課税されることはありませんでした。武富士事件という有名な税務訴訟があります。当時の武富士会長は所有する武富士株式をオランダ法人に移転、さらに長男を香港に移住させ、武富士株式をオランダ法人株式ごと長男に贈与しました。
当時の日本では国外居住者が国外財産を取得しても相続税や贈与税はかからなかったのです(香港には相続税も贈与税もありません。)。この行為に対し国側は1300億円の追徴税額を課したことから争いになりました。長男の住所を争点に最高裁まで争いましたが、国側が敗訴。還付加算金を合わせて2000億円が長男に返還されました。
このような課税漏れを防止するため、平成12年4月1日以降は、たとえ相続人(受贈者)が国外居住者でも日本国籍があり、「その相続人(受贈者)か被相続人(贈与者)のどちらかが5年以内に日本に住所があった」場合には国外財産であっても日本の相続税(贈与税)が課税されることに改正されました。
しかし、この改正後も更に上手を行く手法が採られます。たとえ被相続人(贈与者)が日本に住んでいても、相続人(受贈者)が国外に出国して外国籍を取れば、国外財産の相続、贈与について日本の課税は免れます。しかしこの手法も封じ込められます。平成25年4月1日以降は、外国籍であっても被相続人(贈与者)が日本に住んでいる限り、国外の財産に対しても日本の相続税(贈与税)が課されることに改められました。まさにイタチゴッコです。
~海外財産に相続税・贈与税が課税されないケース~ ○日本国籍あり 相続人(受遺者)及び被相続人(贈与者)双方が相続(贈与)日以前5年以内に日本に住所がないこと ○日本国籍なし 被相続人(贈与者)が相続(贈与)日に日本に住所がないこと ※上記以外は、海外財産でも日本の相続税・贈与税課税 |
◆各国の税務当局がタックを組んだ!
かつてスイスの銀行は機密性が高く、顧客情報を決して外に漏らさないとされ、世界の多くの資産家がスイスの銀行に口座を設けていました。しかし、それも国際的な脱税防止の波に飲まれ、スイスの金融当局は顧客情報を各国と共有する方向へ転換しました。もちろんスイスだけではなく、世界93の国と地域が金融機関の口座情報を提供し合う仕組みづくりを進めていて、2018年には税務当局が、日本の居住者が国外に有する銀行口座情報を得られるようになる予定です。もっとも今でも租税条約のある国とは情報交換を行っているのですが。
◆海外に現金を持ち出せるか?
不動産を国外に持っていくことはもちろんできませんが、現金であっても国外へ持ち出すのは一苦労です。実は日本の金融機関には、100万円以上の国外送金等があった場合に税務署へ報告する義務があります。国外への送金、国外からの送金両方です。場合によってはその国外送金等調書を基に税務署から「お尋ね」が送られてくることもあります。かといって多額の現金などを携帯して国外に持っていくわけにもいきません。やはり、100万円を超える場合には入出国の際に税関への申告が必要です。いずれにしても海外への資金移動は税務署に把握されてしまいますし、まして出所の分からないお金だったら大きな問題です。
◆超富裕層専担プロジェクトチーム発足!
報道によると昨年、東京、大阪、名古屋国税局に超富裕層向け専門チームが立ち上げられ、資産状況や投資行動の情報収集を行われるようになったということです。税務当局も本気で富裕層をマークしてきています。