平成26年8月号
相続税の税務調査はこのようにして行われる!
「相続税の申告漏れ等の非違割合73.2%」。平成25年6月までの1年間に税務署等が実施した相続税の実地調査により、申告漏れ等が指摘された割合です。相続税の申告をするとそのうち約3割について税務署等による税務調査が行われます。申告の内容が正しいかどうかの確認です。この税務調査が行われた場合、実に4人中3人がいくらかの税金を追加で支払っていることになります。しかも、その税金には加算税や延滞税といったいわゆるペナルティも含まれています。これは本来であれば支払わなくていい税金です。節税も大切ですが、調査で否認されないことが前提になっていなければなりません。相続税の税務調査がどのような形で行われるのか、確認してみたいと思います。
◆どのような人に税務調査が入るか?
税務調査選定の最も大きな要因は遺産の額です。遺産総額が10億円を超えるような場合は、ほぼ税務調査になると考えて良いでしょう。遺産額が多いほど調査率は高くなります。提出された申告書に誤りがある場合は当然のこと、記載内容や添付書類に不備がある場合、疑問や不信感を感じさせるような申告書も、調査率が高くなります。複雑な計算についてはその説明文や図を添付するなど、調査官に安心感を与えるような申告書を提出することが望ましいです。また、特に資産家、高所得者については、過去に収集した情報等に照らして、財産額が過少であると判断されれば調査対象になります。
◆ある日突然電話が掛かってくる
査察など強制調査でない限り、通常は税務署より調査したい旨の通知が電話で来ます。税理士が代理申告している場合は税理士に対して通知されます。実地調査が行われるタイミングは申告書を提出してから早ければ3ヶ月、長くても2年くらいまでのことが多いでしょうか。日程調整を経て、被相続人の元居宅で調査が開始されます。規模にもよりますが、調査期間は1日~2日間で、2~3人の調査官により行われるのが一般的です。
◆どのように調査が行われるか?
税務調査は、実地調査日からスタートするわけではありません。すでに調査官は調査前に税務署内で情報収集をしています。過去の所得税申告書や被相続人に関する記録、情報等との整合性を確認します。職権で金融機関に照会をかけて被相続人や相続人の通帳の記録を調べる場合もあります。預金や証券、保険などについては筒抜けと考えた方がいいでしょう。実際の調査時に変に隠すと重加算税の対象になってしまうかもしれません。
実地調査初日は雑談から始まります。しかしこの時に話したことが後々問題になることがありますので注意が必要です。そして、被相続人や相続人の職歴や収入の状況、趣味、病歴、入院歴などについて質問されます。本人の収入や生活と比べて遺産の額が妥当な金額かどうかを確認するためです。つい「父は派手な生活をしていなかった」などと言ってしまいがちですが、実は浪費家よりも倹約家の方が財産は残っているはずなので税務調査では不利なのです。また、収入の少ない相続人などに多額の預金等がある場合も、実質的に被相続人の預金ではないかどうかが疑われます。
被相続人の趣味から、ゴルフ会員権がないか、車やクルーザーなどがないか、絵画や骨董などがないかなどが確認されます。病歴により、入院費などの出費だけでなく、被相続人の意思能力や身体の状況を確認し、相続直前の財産の管理が本人の判断で行われていたかどうかを判断します。金庫など、通帳や重要書類が保管されている場所を確認し、すべての印鑑の印影を採取することもあります。銀行に貸金庫がある場合には同行して中身を確認します。情報の宝庫である手帳や日記帳があれば提出を求められる場合もあります。葬儀の際の香典帳を確認し交友関係から財産漏れを推計することもあります。実地調査では確認しきれなかった事項は税務署に持ち帰り、引き続き署内で調査が行われることになります。
◆どのような財産が否認されるか?
相続財産の金額構成は、土地や建物などの不動産が約55%、続いて現預金が約24%、有価証券が11%です。しかし、申告漏れ相続財産の金額構成では、現預金と有価証券で約50%を占め、土地建物は20%弱です。土地建物は実物があるため財産漏れになることは少ないため原因は評価の誤り程度ですが、金融資産は流動性が高く資金移動や隠蔽が容易に出来てしまうためです。特に問題となるのが、家族名義の預金や相続直前の預金引き出しで、資金の実質的な所有者は被相続人であるとして相続財産に計上させられることが多々あります。また、生命保険金等を申告せずに指摘されるケースもよくあります。