平成26年6月号
相続直前の贈与に注意!
手軽にできて有効的な相続税対策といえば、やはり生前贈与です。といっても一度に多額の贈与を行えば特例制度を利用しない限り大きな贈与税負担を強いられることになりますので、できる限り早い時期から毎年少しずつ贈与を行うことが税負担を抑える効果的な方法になります。
しかし、“自分はまだまだ元気で相続なんてまだ先の話し”と、相続税対策を先送りにしてしまう人が多くいます。そしていよいよ体が衰え、ようやく家族に生前贈与を行うことになるのですが、十分な贈与ができないまま相続を迎えてしまうのです。このようなケースでは、生前贈与を長期間できなかっただけでなく、直前に贈与した財産が、結局相続税の課税を受けることになってしまうのです。では、緊急の相続対策として生前贈与をする場合には、どのようなことに注意しなければならないのでしょうか。
◆相続前3年間の贈与は相続税課税
相続税の計算上、「相続開始前3年以内の贈与財産」については相続税が課税されます。いよいよ死期が近づいてきたと感じ、慌てて贈与をして相続税を少しでも安くしようとする人が多いのですが、これを防止するための措置です。贈与税の基礎控除額は年間110万円ですので、その基礎控除額以下の贈与であれば通常は贈与税が課税されることはないのですが、それが相続開始前3年以内に行われているのであれば相続税が課税されることになります。
なお、贈与財産に贈与税が課されている場合には、相続税が課税されることで二重課税になってしまいますので、相続税額からその贈与税額を控除することで精算されます。
◆相続前3年間贈与でも相続税が課税されない人
3年以内の贈与財産に相続税が課税されるのは、被相続人から相続や遺贈によって財産を取得した人に限られます。孫や子供の配偶者など相続人でない人は、遺言や保険金の取得がない限り遺産を取得することはありません。したがって相続が近いと予想される場合は、孫や子供の配偶者などに贈与しておけば、相続税が課税されることはないので、相続税の対策として確実に実行することができるのです。
◆相続前3年間贈与でも相続税が課税されない財産
相続開始前3年以内の贈与でも、次のような贈与税の特例の適用を受けた財産については、その特例を受けた部分の金額については相続税が課税されることはありません。ただし、これらの特例の適用を受けるためには贈与税の申告書を提出する必要があります。なお、前述のとおり贈与税の基礎控除額110万円については、それを控除する前の金額が相続税の対象となりますので注意が必要です。
・贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産や居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、その贈与金額から最高2,000万円までの金額を控除することができます。
・住宅取得等資金の贈与税の非課税
平成26年中に父母や祖父母など直系尊属から、自己居住用の住宅用家屋の新築や取得、増改築等の対価に充てるための金銭の贈与を受けた場合において、一定の要件を満たすときは、500万円(省エネ等住宅については1,000万円)までの金額について贈与税が非課税となります。
・教育資金の一括贈与の非課税
父母や祖父母など直系尊属から教育資金に充てるため、その直系尊属と信託会社との間の教育資金管理契約に基づき信託の受益権を取得した場合などには、その信託受益権のうち1,500万円までの金額について贈与税が非課税となります。
◆値上がりが見込まれる財産の贈与で対策
相続開始前3年以内の贈与財産は、その贈与時の価額が相続税の課税価格に加算されることになります。したがって、たとえ贈与を受けた財産の相続時点の価値が減少していても、贈与時点の高い価額に対して相続税が課税されてしまいます。逆に、贈与を受けた財産の価額が相続時点で高くなっていても、贈与時点の低い価額に対して相続税が課税されることになります。例えば、値上がりが確実に見込まれる株式などを贈与しておけば、その後3年以内に相続が発生しても、相続税の課税対象となるのは、贈与時の低い価額ということになります。
◆贈与と認められるか
相続税の税務調査などでは、贈与が被相続人の意思で行われていたかどうかという点がよく問題となります。民法第549条では「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与うる意思を表示し相手方が受託を為すによりその効力を生ず」と規定されています。贈与時点で被相続人の意思能力がなかったと認められれば、贈与はなかったとされ、その財産は被相続人の財産として相続税の課税対象とされますので注意が必要です。